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March 2, 2023 / Law Alert

【日本語抄訳】自動運転車の衝突最適化システムがもたらす潜在的な責任を軽減する 自律走行車衝突最適化システム

自動運転車の開発はエンジニアや消費者が長きに渡り夢見てきたものです。ついに我々の願望に技術が追いつく時が来ました。この技術的飛躍は、ドライバーだけでなく、相手先ブランド製造(OEM)により責任が加重される港や、テクノロジー企業及び自動運転車に必要となるシステムの開発・導入に関与するあらゆる者にとって、潜在的に大きな利益となる可能性を秘めています。

自動運転車がもたらす潜在的な利益は多数あります。そのもっとも偉大なものの一つは、交通の安全性が増すことです。現在の統計によると、自動運転車のシステムにより衝突事故が現状する可能性が高いとされています。自動運転車は、例えば高齢者、目の不自由な方、身体障害者の方等、交通手段へのアクセスが限られている人々のモビリティを向上させることもできます。自動運転車の技術により、交通渋滞の緩和による燃費の向上、消費燃料の削減、及び温室効果ガス排出の削減といった効果も期待できます。

自動運転車の優れた安全性を実現する方法の一つに、衝突回避システムへのインプットを創出するセンサーを充実させるというものがあります。これは、LiDAR、SONAR、レーダー、カメラ、GPSなどを組み合わせたシステムで構成されることがあります。米国運輸省道路交通安全局(以下、NHTSA)の2015年の調査によると事故の94%はドライバーに決定的な原因があり、衝突回避がうまく機能すれば交通安全の向上を実現することができます。

もっとも、衝突回避システムは常に完璧というわけではありません。NHTSAの2022年サマリーレポートによると、2021年7月から2022年5月までに、自動運転車が関与したレベル2の衝突事故は392件、レベル3以上の衝突事故は130件ありました。また、全てのレポートに負傷の有無が記載されているわけではありませんが、負傷の状況が報告されているレベル2の衝突事故98件のうち、6件が死亡に至っています。

自動運転車が関与する事故が発生した場合、その責任は個々のドライバーに対する過失責任から、OEMや潜在的にはその他の企業に対する製造物責任に移行するというのがコンセンサスです。この責任の移転に関する法的分析の大半は、衝突回避システムが上手く作動しなかった場合の自動運転車の技術の結果を分析したものでした。衝突回避システムが機能すれば、衝突は起きないというのがその考え方です。システムが故障した場合、当事者が責任を負う可能性のある欠陥があったことになります。

衝突最適化システム

それは一見二者択一に見えますが、実際にはそうでないかもしれません。衝突事故が必ずしもシステムの故障によるものではなく、不可避な事故に発展するような乗員の誤操作や外的要因による場合があることは事実です。例えば、ブラックアイスのような事前に確認できない滑りやすい路面状況に遭遇することがあります。また、タイヤのパンクや車軸の破損など、機械的な故障が発生する可能性もあります。このような場合、自動運転車は一時的に制御不能となり、事故を回避できない状況に陥る可能性があります。また、第三者の行為によって避けられない事故が発生する可能性もあります。例えば、歩行者が遮蔽物の陰から出てきた場合、近距離過ぎて自動運転車が衝突を回避できないこともあるでしょう。

衝突が避けられない場合、自動運転車は「衝突最適化システム」と呼ばれる別の安全システムに依存します。 衝突最適化システムは、差し迫った衝突の状況を評価し、その衝突による悪影響を最小限に抑えるための操縦を行うように設計されています。自動運転車が未来のユビキタスな交通手段となるためには、OEMは責任追及のリスクを最小限に抑えるべく、衝突最適化システムの性能を最大化する必要があります。

 最も「ライアビリティ・ニュートラル」な衝突最適化システムを決定する必要性は、避けられない衝突で誰が、あるいは何が最も影響を受けるかというホブソンズチョイスに起因しています。衝突最適化システムは必ずしも負傷を防ぐものではなく、負傷を引き起こすことさえあるため、OEMやその他のメーカーは、衝突最適化システムに欠陥があると主張する事故被害者による製造物責任賠償請求が相当数発生する可能性があります。 そのような請求や潜在的な責任を減らすために、製造メーカーは衝突最適化システムの設計方法を検討し、自動運転者の乗員や第三者への身体的被害を最小限に抑え、「乗員は安全」という消費者の期待と一致するようなシステムを設計するよう試みる必要があります。

製造物責任の基本的な考え方

製造物責任請求は、製品が不合理に危険であり、したがって欠陥があるとみなされる場合に発生します。製品の欠陥には一般的に、製造上の欠陥、設計上の欠陥、警告上の欠陥の3つのカテゴリーがあります。 自動運転車の事故は、これらのカテゴリのいずれかに該当する可能性があり、1つのケースで複数のカテゴリに該当する可能性もあります。         

製造上の欠陥とは、製品が製造者の意図した状態にない場合、すなわち意図された設計から逸脱している場合に存在します。衝突最適化システムに関しては、衝突最適化システムが製造者の意図した通りに作動せず、プログラムされた指令から逸脱した場合にのみ、請求が可能となります。         

警告上の欠陥は、製品によってもたらされる被害の予見可能なリスクが、合理的な指示や警告を与えることによって減少または回避され得た場合に発生します。OEMは、取扱説明書に明確な指示と警告の文言を記載し、システムのプログラミングについて消費者の認識を促すことにより、請求を受けることをを軽減するための具体的かつ計画的な措置を講じることができるはずです。          

設計上の欠陥は、製品が意図した通りの性能を発揮しているにもかかわらず、危害が生じる過度の危険性がある場合に発生します。設計上の欠陥の主張は、衝突最適化システムが関与する事故が発生した場合に最も提起される可能性が高い製造物責任請求です。衝突最適化システムが作動するということは、これから何らかの衝突が発生するということであり、その結果人や物に損害が発生する可能性が高くなります。このようなシナリオの下では、原告が自分の損害を最小限に抑えるために別の行動方針を立てる可能性があることは不可避です。 これは一般に、「合理的に実行可能な代替案」、すなわち、衝突最適化システムが特定の原告への危害は回避するものの、他の人または財産への物理的危害を引き起こす可能性が高い設計を提案する専門家を通じて行われます。衝突最適化システムを設計する場合、設計上の欠陥によるクレームを回避することは極めて重要であり、多大な注意と集中力が必要とされます。

責任とリスクの最小化

製造メーカーは、2つの一般原則を適用することで、衝突最適化システムによる損害による設計上の欠陥にかかる主張に対する潜在的な責任と損害賠償を軽減することができます。 全てのシステムは、以下のように設計される必要があります。

(1)仮に軽傷者数が多くなっても、可能な限り重大な被害を生じさせないこと。

(2) 他の全ての要素が同じであれば、自動運転車の乗員を保護すること。

これらの原則がどのように適用されるかを説明するため、次のような例を考えることができます。

例1:1人乗りの自動運転車が住宅街の並木道を時速25マイルで走行中です。走行中、木の陰から歩行者が道路に侵入してきました。歩行者は自動運転車にあまりにも近い所にいたため、自動運転車は衝突前に停止することができません。自動運転車は、a)歩行者に衝突する、b)歩行者を避けて道路の両脇の木にぶつかる、という可能性があります。自動運転車の衝突最適化システムは、たとえ低速でも歩行者に衝突すれば、歩行者の重傷や死亡につながると判断しています。木にぶつかると自動運転車が破損し、乗員が負傷する可能性がありますが、自動運転車の安全システムにより乗員が重傷になる可能性はとても低いです。上記の原則を適用し、AVは歩行者を避けて木に衝突します。

例2:同じ事実が適用されるが、車の乗員は4人です。この場合でも、自動運転者は歩行者との衝突を避け、木に衝突するでしょう。この場合、負傷者数は増加しますが、負傷の程度は歩行者の衝撃による負傷に比べれば軽いでしょう。

例3:1人乗りの自動運転車が並木道を時速45マイルで走行しています。走行中、木の陰から歩行者が道路に侵入してきました。歩行者は自動運転車にあまりにも近い所にいたため、自動運転車は衝突前に停止することができません。このとき、自動運転車の衝突最適化システムは、歩行者に衝突すると、歩行者が重傷または死亡する可能性があると判断します。しかし、時速45マイルで木に衝突すれば、乗員が重傷を負うか死亡する可能性があるとも判断します。上記の原則を適用すると、自動運転車は歩行者に衝突し、乗員の安全を確保することになります。

これらの原則を適用することで、現行の製造物責任法の下での請求や責任を最小限に抑え、事故の最適化を図ることができるはずです。 

特定の設計に欠陥があるかどうかを判断するために使われるテストはいくつかありますが、裁判所は一般的に、消費者期待テストとリスク/ユーティリティテストの2つのうちどちらかを採用しています。上記の原則に従ったシステムは、どちらのテストが適用されるかに関わらず、OEMの責任結果を改善することにつながるはずです。そうとは言え、自動運転車システムが比較的新しく複雑であることを考えると、自動運転車の文脈でどちらのテストを適用するにも課題があり、別の分析を行うことが正当化されるかもしれません。

(A) 消費者期待テスト

消費者期待テストは、一般的に、消費者がその製品がどのように機能するかについて合理的な期待を形成することができるような単純な製品に関連して使用されます。 この基準が複雑な自動運転車に適用できるかどうかは疑問ですが、自動運転者が被害を最小化するというテストの基本的な前提は変わりません。

消費者期待テストの下では、製品に欠陥があると判断されるためには、一般消費者が想定する範囲を超えた危険性がなければなりません。上記の原則は、現在の自動車過失の判例法において人間のドライバーが要求されるように衝突最適化システムを動作させるので、消費者の期待に合致しています。具体的には、多くの州は、「緊急事態法理」又は「突然の緊急事態法理」として知られる法理を適用しています。これらの法理では、突然の緊急事態に直面し最善の判断で行動したものの、損害を最小とする行動をとることができなかった又はそれを控えた場合、運転者は同様の状況で合理的な人がするように行動する限り、過失を問われることはないとします。裁判所は、多くの事例において、衝突が迫っているような緊急事態に遭遇し、乗員あるいは第三者を負傷させる交通事故を起こした運転者について過失責任を負わないと判断しています。 これは、運転者の選択により損害が大きくなった場合であっても同様です。緊急事態法理は、運転者が突然の衝突の可能性に直面した場合、運転者は衝撃を避けるか、又は衝突によって生じる損害を最小限にするように試みるだろう、という基本的な考え方によるものです。

これらの原則は、他人を救助する義務はないというアメリカの一般的なルールにも合致しています。なお、10の州(カリフォルニア、フロリダ、ハワイ、マサチューセッツ、ミネソタ、オハイオ、ロードアイランド、バーモント、ワシントン、ウィスコンシン)で救助義務を課す法律が可決されていますが、 そのような義務は一般に犯罪が行われた場合にのみ適用されます。

過失の法理は製造物責任の請求には適用されないと主張することも可能です。また、自動運転車が人間のドライバーと同等ではなく、それ以上の性能を発揮することを期待するというのも、このアプローチに対する潜在的な議論です。しかし、運転中の人間の行動に代わろうとする製品を評価する際には、一般大衆が許容できる基本的な性能とは何であるのかを決定することが(不可欠ではないにしても)有用です。このような分析無しに消費者の期待を判断することはできませんし、人間のインプットに代えて人工知能システムを採用することによる潜在的リスクに対する消費者の意識を正確に評価することもできません。現時点では、公共道路を走行する主体は人間であり、これまで発展してきた、合理的な行動に対する人間の説明責任を裁定する法律を検討する必要があります。

最後に、上記の原則は、自動車の安全システムの焦点に関する消費者の期待と一致しています。今日の自動車安全システムは、一般に、車外の第三者や財産よりも乗員を保護するために設置されています。1)シートベルト、エアバッグ、その他の自動安全装置は乗員の負傷を防ぐために設計され、2)折りたたみ式ステアリング・コラムは乗員の体当たりを防ぐために設計され、3)自動車のクランプル・ゾーンは衝撃による力を乗員の周囲に再分配させます。

(B) リスク/有用性・テスト

リスク/有用性・テストでは、特定の設計に関連するリスクが利益を上回る場合、製品は不合理に危険であり、よって欠陥があると判断されます。リスクが特定の設計の効用を上回るかどうかを判断するために考慮されるファクターはいくつかあり、法域によって異なります。 一般的なファクターには以下のようなものがあります。(1) 設計された製品が引き起こす可能性のある被害の大きさ、(2) 警告や一般的な知識などに基づくかどうかにかかわらず、製品使用者が被害の危険性を認識していると考えられること、(3) 機能的で妥当な価格の代替デザインを設計・製造することができる可能性、 (4) 製品の有用性、 (5) 傷害が生じる可能性、などです。

ここで提唱されているアプローチは、システムの有用性を示すために依拠された要因に合致しているため、リスク/有用性テストとも整合しています。 まず、潜在的な傷害の大きさを軽減することにより、要因1は満たされるはずです。 被害のリスクは、消費者がすでに人間のドライバーから直面しているリスクを反映するもので、適切な警告と指示によってそれを軽減することにより、要因2を満たすことになります。 要因3も、提案された原則を適用するメーカーに有利です。なぜなら、その設計が最も価格の高い選択肢であると考えられるからです。負傷者の数を最小限に抑えつつ、より重傷になることを許容する代替案も当然あり得ます。しかし、そのようなアプローチは要因1に直接抵触するため、許容できる代替設計とはみなされません。 自動運転車の潜在的な有用性は先に述べたように大きいので、自動運転車を普及させるためのデザインはほぼすべて要因4に適合します。これらの原則に傾かない唯一の要因は、要因5の「傷害の可能性」です。提案されているアプローチは、別のモデルよりも多くの傷害(人と財産の両方)をもたらす可能性がありますが、やはり消費者の期待、緊急事態の原則、要因1と一致し、法律は特に車両所有者の犠牲の上に、より深刻な傷害を容認することはできません。

国家規格の必要性

提案されている原則は、衝突最適化システムに対する設計上の欠陥クレームに対する責任を軽減する可能性が高い一方で、NHTSAまたは他の管理当局による衝突最適化システムに対する明確な基準の策定が不可欠であることに留意しなければなりません。 上記の原則と矛盾する主張を排除する普遍的な原則と要件を示す自動車安全基準がなければ、メーカーは連邦の基準による保証なしに、現行の判例法と上記の原則に対応する衝突最適化システムを設計しなければならなくなります。 さらに、判例法が予測なく変化することを考慮すると、自動車メーカーは判例法の発展に合わせて設計を変更することを余儀なくされるでしょう。